2021.2.19(金)

父が生きていると思い込んでいた美代さん。
何度も訊かれ、疲れたあたしは今年が十三回忌であることを教えた。
暫くは納得していた?ようで、何も言わない日が続いていた。

でも、おかしなことに、何も言われないとそれはそれで不安になる(苦笑)
さて、どうしたものかと・・・父の事を切り出そうかと思っていたけれど、美代さんの中ではやはり生きていることになっていた。
昨夜の晩ご飯時。ポツンと。

「じっちゃ、サキの居る家でご飯食べでらのがな・・・」

「そうだと思うよ」

サキが何処に住んでいるのかも判らなくなっているけれど、取り敢えず孫と居るのだろうと思っているみたい。

あたしはこの母親の認知症が、どこまで進行しているのかと、ときどき疑ってしまう。
もしかしたら、全てが演技ではないのか・・・
あたしを、おちょくっているのではないか・・・
でも、真面目に・・・真面目はおかしいか。
真面目に忘れてしまっている。

自分でしてきたこと・できて居たことも全て忘れてしまう。
今朝も、入歯を外さずにうがいをしようとしていた。
最近は美代さんの耳にはどの様に聞こえているのか判らないが、外すように何度言っても外さないことが多い。(耳が遠い訳ではない)
だから、問答無用で口を開けさせ、指を入れ強制的に取り出している。

「あたしだってね、好きで食べカスだらけのあなたの口に指を入れてる訳じゃないのよ!でもね、自分で外そうとしないじゃない。だからあたしが外しているのよ」

最初は抵抗していたけど、もう諦めてしまっているみたい。
でも、意地悪婆さんなら・知恵ある婆さんなら、指を噛んでくるかもしれない。そういうことをしないと解っているから、やっているけれど。

「年寄りは何でもかんでもでぎなぐなって、最後にはかんおげさ入るんだな・・・」(棺桶)

何故できなくなっているのかを理解していない。
あなた病気。忘れて行く病気なのよ。だから仕方がないの。
こう言っても、すぐに忘れる。

そう、忘れるけれど想いはある。何れは棺桶に入る。
人は必ず死ぬ。死ぬということは理解している。

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要介護3。
父は生きていると、思い込んでいる。

あたしも、忘れて行くことは理解している。
頭では解っているけれど、気持の上ではそうはならない。

美代さんは忘れて行くが、あたしは忘れない。
この溝は大きい。
溝が埋まる頃には、あたしのことも忘れているのかな。