母美代さんの手は、昔から冷たかった。
真冬の岩手の凍えるような日でも、手袋をしている姿を見たことがなかった。
足が冷たいと言い、靴下の重ね履きはしていたが、薄氷の張った漬物樽に手を入れても「手が冷たい」と、言うことなどなかった。

そんな美代さんでも立派な皮の手袋を持っている。
自分で買ったのか、誰かにもらったのかは、あたしは知らない。
でも、その手袋をしている姿も見たことがない。

宝の持ち腐れ・・・とまでは言わないが、どうせしないのなら、あたしに頂戴と言うと、二つ返事で「いいよ」
これは、一昨年のことだったと思う。


最近になり「手が冷たい」と言い出すようになった。
家で過ごす日は、デイケアから頂いたハンドウォーマーをしている。
一昨日だったか、手が冷たいのでこのままこれをして寝たいと言い出した。
動きが取れなくなって危ないからと止めさせたが、余程の想いだったのかもしれない。

今日はクリスマスイブ。
子どもの頃、亡き父が生?のもみの木をどこぞから調達してきて、雪に見立てた真綿や電飾・オーナメントを、父と妹のソノコと飾り付けていた。

その飾り付けに美代さんが参加することはなかった。
美代さんは、イベントごとには興味がなく、お洒落やファッション的なことにも疎く、飾り付けなどにも興味を示すことはなかった。

クリスマスプレゼントはいつも父から(サンタさんだけど、置いといて)
美代さんから貰ったことはない。

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先週、デイサの送迎車に乗る際に、先に乗っていたNさんが、乗り込もうとした美代さんの手を引っ張ってくれ、その時発した言葉が、

「なんて冷たい手なの!寒くないの?」

「・・・・・」

あたしは面目が立たなかった。
親の冷たい手を承知で放っていたが、それをNさんに指摘されたように思った。

美代さんは手袋をしたいとか、欲しいとは言わない。
あたしにくれた手袋のことも、既に忘れているのだろう。
今日は手袋を渡した。
あたしが持っていたアクリル毛糸の手袋。
それを観た美代さんは、

「布の手袋が?」

「毛糸だよ」

渡された手袋だが、指をきちんと入れることができなかった。
むすめ達が幼かった頃、やはり5本の指を入れることができずに、人差し指と中指を一緒に入れることがあったが、そんな状態だった。

「あぁ~もう、違うでしょ。ちゃんと1本ずつ入れて」

土方仕事や農作業で、軍手やゴム手袋の経験はあっても、防寒用の手袋の経験はない?でも、いったい何が違うのだろう。
これは手袋の経験ではなくて、単なる認知機能の低下なのかな。

靴下を履くのは毎日のことなので忘れないけれど、手袋は冬だけのこと。
ましてや普段からすることのなかった美代さんだ。
致し方なしなのかもしれない。

クリスマスプレゼントに、手袋を買うつもりでいる。
中が起毛になっているような、暖かな手袋を探してみよう。

デイサから帰って来るのは、夕方の4時過ぎ。
このブログを書き終えたら、買い物へ。
そうだ、ケーキも買わなきゃ。

そのケーキも、特別好きな訳ではないから、スイーツコーナーにあるような小さなもので十分だけれど、まぁ、気持の問題としてね。

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コロナ禍の中でのクリスマス。
おとなしく控えめに、ですね。