いっそのこと、全部忘れてくれたら施設にお世話になれるのに。

美代さんの記憶は長続きしない。
8月16日のブログに、あたしを誰だ?と言ってきたことを載せているが、
昨日も又言われた。

仏壇には、父と夫の写真を立てている。
父のことは何となく憶えているが、あたしの夫のことは最近はすっかりと忘れてしまっている。

「この人はあたしの夫の〇〇さん。ユカ・サキののお父さんだよ」

「ふ~ん、知らながった」

この会話が何度も続いている。
そして、何度も忘れる。

「なして、このおどごの写真がこごさあるのだ?」

「あたしの夫だからよ。お婿さんにきてくれたでしょ!」

「ほう?そだのが。知らながった」

とぼけて、わざと知らないふりをしているのかと思ってしまうこともあるが、本人は至って本気で忘れているようだ。
こうなると、あたしも不安になる。

「ねぇ、あなたの子どもの名前を言ってみて!」


のらりくらりとはぐらかし、さも解っているよ・憶えているよのアピールをしながら、自分が産んだ子どもの名前を言えなかった。
そして、さいごの最後に、妹のソノコの名前が出た。
あたしは又もや愕然。
一緒に住んでいる、全ての世話をしている「あたし」の名前が出ない・・・。

「ねぇ、あたしの名前は?」

「ん?おめは・・・誰だっけ?とっと~・・・あ、〇〇だ」

やっと出たあたしの名前・・・。
高校卒業後短大からは一人暮らしを始めた妹のソノコ。
親元に居たのは18年間で、仕事に就いてからもあまり家には寄り付かなかったのに、先に名前が出た。
世の中の親とは、傍にいる娘よりも、遠く離れて暮らしている娘を案じる気持ちの方が、先に立つようだ。

「おかぁのことは、娘と言うより同居人の感覚なんじゃない?だから、すぐには名前が出ないんじゃない・・・」

長女のユカが言っていたが、中らずと雖も遠からずのようにも想う。
身の回りの世話をしてくれる同居人・・・それが今のあたしなのだろう。

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でも、悔しいので更に訊いてみた。

「じゃぁさ、あなたの妹の名前を言ってみて」

「何言うってよ!ミッコどソノコだ」

当たり前のことを訊くなと言わんばかりに、この質問にはあっさりすんなりと答えた美代さん。
実際の妹は、ミッコさん・ヨッコさん・ナッコさんの3人。

ミッコさんは当たっているよ。あなたのすぐ下の妹だから。
でも、ソノコはあなたの娘だよ!さっき、あたしの名前が出ないのにソノコの名前は出ていたよね!?
とは、言わなかったけれど、心の中では叫んでいた。

普段は、ミッコさんのことは話題には上らない。
電話で話すのは、二番目の妹のヨッコさん。
そのヨッコさんとは毎週のように電話をしているのに、ここでも最初に出た名前はミッコさん。

ヨッコさんとあたしは、もしかしたら同じ立ち位置の存在なのかも。
いつも傍にいる感覚なので、気にも留めない・・・こういうことなのかもしれない。

「ねぇ、他にも妹が居るでしょ?」

「ミッコど、ソノコだげだ」

記憶とは何か・・・。
あたしはこの後ヨッコさんに電話をし、上記のことを話し記憶を蘇らせてもらうことにした。
兄弟姉妹の名前を言い合っていた二人。
亡くなった兄弟の名前は、スラスラと口にしていたが、妹たちの名前になると考えて答えているように観えた。

電話を切る前にあたしと話をしたヨッコさんは、あたしを気遣うような言葉を言ってくた。

「早めに施設さ入れだ方がいいんでねが・・・一緒にいでも、お前が疲れるだげだろ?」

「そうなんだけど、介護度が3にならないと特養には入れないから」

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あれほど食べるとが大好きと言っていた、美代さんの食欲が落ちている。
ご飯の量が減り、夕寝から晩ご飯も食べずに朝まで寝ることが多くなってきている。
身長、138センチ。
検索すると、標準体重は41.9キロ。
実際の体重は、49キロ。
これは、肥満体重の47.6キロよりも重い。

食べることも、忘れるのかな・・・。