「オレがら取り上げるのが?!」

美代さんの化粧品の一つに、日焼け止め兼薄くファンデーションがつくタイプの、BBクリームがあった。
デイケ・デイサへ通うようになり、入浴中に取れてしまうことと、朝の慌ただしさから、塗ることをやめてしまった。
それでも、日焼けすることを嫌がり、2年くらい前からだっただろうか。
ならばと使い始めたのが、日焼け止めジェル

暫くはそのジェルを毎朝塗っていた。
もちろん、デイへ行く日の朝もだ。
そして、利用者さんの中には入浴後にお化粧しを直している方も居るということで、自分もつけると言い出し持って行く日もあった。
が、せっかく持って行っても、つけずに過ごしたとも言っていた。
なぜなら、時間に追われての入浴と着替えで、顔に塗っている時間などなかったと。

この借家に越してきてからの美代さんの認知度は一気に進行したように感じている。
2年間使っていたジェルを観て「これは何だ?」と、訊いて来たり「どの様に使うのか」とも訊かれた。
ずっと使って居たことと、使い方を教えても「憶えていない」と言われていたが、最近また使い始めるようになった。
そして今朝、

「一緒に風呂さ入るおばさ、風呂上りに綺麗に化粧してる。オレもこれ持ってぐ」(おばあさん)

そう言い、バッグの中に入れていた。
あたしは思い出した。
以前にも何度か持って行き、結局は使わずじまいだったことを。

「あなた、持って行っても使わないんだから要らないでしょ!」

バッグから出してしまった。
そして言われた言葉が、冒頭の「取り上げるのか?」だ。
この言葉に、あたしは「ハッ」とした。

・・・まずい・・・

この後「わかった、持って行っていいよ」と、バッグの中に入れてやった。
それを観ていた美代さんの顔は、一瞬で微笑みに変わった。

認知症患者は、怒られた理由は忘れても怒られた記憶だけが残る。
専門書には、このように記されている。

一緒に入るおばあさん・・・自分だって結構なおばあさんではないか!
棚上げしているように想う。
それに、そのおばあさんのことって、もしかしたら以前に話していたおばあさんのことじゃないの?
「ふと」思い出したんじゃないの?
とは、さすがに言わなかったけれど、最近の美代さんの記憶は時に数分も保たない。
いつかのことを急に思い出したのだろう。

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さて、持って行ったジェルは使ったのだろうか?
帰ったら訊いてみよう・・・いや、それも間違いね。
今日、どこに行ったかも忘れるのだから、デイでのことなど憶えちゃいない。

あたしが思うことは、全てクリアな人の考え。
美代さんには通用しない。
そして、疲れる。

認知症の介護をなさっている方と、生の会話がしてみたい。
あたしの介護は、通用しているのだろうか・・・。