女優・市毛良枝さんの葬儀のCMで「母は紫が好きだった」と言う、フレーズがある。

あたしは母美代さんが、何色が好きなのかを、全く知らない。
丁度CMが流れていたので、訊いてみた。

「ねぇ、あなたは何色が好きなの?」

「オレが?オレは紫が好きだ」

60年、娘をしてきたけれど、初めて紫が好きということを知った。
でも、美代さんの服や持ち物に、紫の物は・・・ない。
いつから好きだったのだろう。
ならば、その紫の何かを死装束にワンポイントにしてみようかと訊いてみたが、判らないという返事。
何が判らないのか・・・死装束という言葉が判らないと言われた。
こういうところが面倒くさいと、思ってしまう。

両親は確か、60代の頃に出羽三山詣でをしている。
その時の装束が、お遍路スタイルだった。
11年前、父が亡くなった時には、そのお遍路装束で旅立たせたと、母から聞いていた。
そして、自分が亡くなったら、そのときは父と同じ姿で旅立たせてほしい・・・そんなことも言っていた。

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あたしは父の納棺に立ち会うことはできなかった。
父と会えたのは、既に棺の中に綺麗におさまった状態であった。
でも、美代さんは言う。

「オメが着せでくれだんでねのが?」

お遍路スタイルのことは勿論、出羽三山詣でのことも憶えていない。
そして、父に何を着せていたかも、全く憶えていないと言われた。
これ以上は何を言っても無理。
ならば、棺に入るときに何を着たいのかと訊いてみたが、

「オレはふぐのごどは何も知らね。持ってるふぐ着せでけろ」

美代さんらしい返事だ。
お洒落には全く興味がなく、服は着られれば良いという考え方の持ち主。
訊いたあたしが間違っていた・・・と、言うしかない。

お遍路着、実家のどこかには仕舞ってあるはず。
お盆帰省時に、探してみよう。
そして、亡くなったときには、好きと言っている紫色の何かを添えよう。


この内容は「鬼娘の介護日記」の「死装束」を参考にさせて頂きました。