「オレは、おめが行ぐどごさ連れでってもらえるのが?」

引越しがどういうことなのか、なんで判らないの?
あなただけここにいて、どうするつもりよ!
何度も、一緒だって言ってるじゃない。

と、心の中で叫んでいるあたしです。

一人だけ残されると思って言っているのか。
それとも、引越し自体がどういうことなのかが理解できないのか。
そしていつもの言葉が出てくる。

「オレ、あっちで暮らす」

「そう。でもね、住所変更の手続きがあるから、早めに決めてね」

「いや、まだ行がね。今は寒がらあったがぐなってがらにする」(暖かく)

スポンサーリンク


この2年間。
お正月はともかく、GW・お盆帰省の際には「しばらくこっちで暮らす」と、言いながら帰るその日の朝には「やっぱり、おめど帰る」と。
認知症でも、実家と古河での暮らしのどちらが住み良いかを天秤にかけられる能力は、残っていたようで、ちゃっかりと荷造りをしていた美代さんです。

何度も繰り返されていることなのですが、正直言って嫌になります。
もう、いい加減にしてほしいのです。

「そんなに実家が恋しいのなら、すぐにでも帰ればいいのよ。そんで、孫のユカ・サキから介護してもらえばいいのよ。そうすればあたしの苦労もなくなるから。でもね、ユカ・サキはあたしほどのことはやってくれないよ。それ解って言ってるの?」

「そだよな~・・・」

あぁ、ウザイ。
「おめど暮らす」って言ってたよね?
なんで腹をくくれないの?ドンと構えられないの?
どこまでがクリアでどこからが認知症?

父と建てた家・長年孫と一緒の住み慣れた家だものね。
そんなに恋しいのなら・本気なら帰ればいいのよ。
そうすれば、あたしも自由になるし。

f14e984e03394dedf13ebf14d278063e_s


3年前の10月。
例え母娘でも、プライバシーのない暮らしは嫌だったので、狭いアパートからの引越しを決めた。
その時は、今ほど何やかやとは言わずに言うことを聴いていてくれていた。
あたしと暮らせることを、喜んでいるようなことも言っていた。

86年の人生で、一人暮らしの経験などはなく、子・孫に囲まれての生活が常だった美代さん。
淋しいのでしょうね。
その気持ち、解らなくもないけれど。
でも、自分がどういう状態かを少しでも理解してるでしょ。
忘れることが増えていることを、嘆いていたよね。

「あっちで暮らす」は、独り言として、
そろそろ聞き流しの時期に入ったようにも思います。



スポンサーリンク