母美代さんは、捨てられない症候群。

気持ちは解る。
貧乏農家に生まれ、物のない時代を生き抜き、誰の手も借りずに全てを父と二人で揃えてきた。

父が亡くなり遺品整理をしていた際の事。
整理ダンスの上に置いてあったコンテナケースの中から、買ったままの封も開けていないアンダーシャツが何枚も出てきた。
何故着せずに仕舞っておいたのかを母に問うと、病院受診時や、万が一入院した際のために買っておいたものだが、仕舞い忘れていたとのこと。
小柄な父だったので、形見分けもできずに勿体ないとは思いつつも結局は捨てもの。

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何もないゼロからの生活で揃えた物は数知れず。
特に父は食器が好きで、何とか文化センターとか、何とか直販などから購入のシリーズものの食器の数は半端ない。
料理好きだった父なのでついつい買ってしまったのだろうが、普段使いのものはそうそう変わるものではなく、殆どが同じもので、使わずじまいのまま箱に入れ物置へ。

母が好きだったのは、寝具類。子どもの頃から寝具にはあこがれがあったそうだ。
幼い頃からまともな布団に寝たことがなく、板の間にゴザを敷きボロ布のような掛物で寝ていたそうだ。
その反動からなのだろうか、この家には宿泊施設並の寝具がある。
三軒分の上下2段の押し入れに、ぎゅうぎゅう詰めの夫婦布団と真新しい座布団が20枚。
それ以外にも、毛布・タオルケット・丹前、枕と恐ろしいほどの数だ。
ベッドが主流になっている今では、綿100%の布団よりも、軽くてより暖かい羽毛布団の方が重宝されているのが現実。母が使っている掛け布団も実は羽毛布団。

押し入れふさぎのこれらの処分をするのは、他の誰でもないあたしの役目。


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父が亡くなって後、母に言ったことがある。

「人は必ず死ぬのだから、後に残される者に余計な負担を掛けないように、少しづづでもいいいから処分してよね」

できるはずがない。解ってはいたが、もしかしたら片付けてくれるかもしれない・・・甘い考え。

今回の帰省で、押し入れやタンスの中の物を確認しているまだらボケの母、物への執着はまだまだ残っている。たとえあたしでも簡単には捨てられない。
いつか折を見て、母の記憶から執着心がなくなったと思われる頃の仕事になるが、今はその時ではない。

人はかならず老いる。

者や物に執着しない、川の流れのような生き方ができたら、幸せだろうか。


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